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「好意同乗」の場合の交通事故、運転手側に損害賠償を請求できる?

「好意同乗」の場合の交通事故、運転手側に損害賠償を請求できる?

 

 

Aさんは、買い物の途中、偶然知り合いのBさんに会い、一緒に買い物をすることになりました。Bさんは買い物の途中、Aさんに対して、「最近眠れなくて困っている。昨日も徹夜で、ほとんど寝ないまま今日買い物に来ている」などと話し、それを聞いたAさんは、Bさんの体調を心配する言葉をBさんに掛けてあげました。

 

その後、買い物が終わり、二人が帰宅する際、Bさんは車の持っていないAさんに、「家まで送るから私の車に乗っていったら」と声を掛け、Aさんは買い物で少し疲れていたこともあり、Bさんの言葉に甘えてBさんに車で家まで送って行ってもらうことにしました。ところが、その途中、Bさんは睡眠不足による運動能力と判断能力の低下が原因で大きな単独事故を起こしてしまい、それにより、Aさんは重傷を負ってしまいました。

 

果たして、このような場合、Aさんは、Bさんに対して損害賠償請求できるのでしょうか。

 

1.好意同乗・無償同乗

 

冒頭のケースのように、他人の好意・無償での自動車の同乗を「好意同乗」「無償同乗」といいます。そして、自動車の運転手は、自身の起こした事故により同乗者に生じた損害を賠償する責任を負う場合には、たとえ好意同乗・無償同乗でも、その責任を免れることはありません。

したがって、Aさんは、Bさんに問題なく損害賠償請求することができるのです。

 

Aさんとしては、好意から同乗させてくれたBさんに損害賠償請求することに躊躇を覚えるかもしれませんが、Bさんの好意に感謝することとBさんの不注意により生じた自分の損害の賠償を求めることは別問題です。

通常、自動車を運転する者は任意保険に加入しています。よって、Bさんに対する請求というより、実際は保険会社に賠償金を請求することになりますので、あまり気にしなくてよいでしょう。

 

2.賠償額の減額

 

繰り返しになりますが、好意同乗・無償同乗の場合でも、同乗者は運転手に損害賠償請求できます。

もっとも、その賠償額は、好意同乗・無償同乗を理由減額されてしまうのではないか、という不安が残ります。

 

この点については、かつては、全くの第三者に事故を起こされたものではなく、好意から同乗させてくれた運転手に対して事故により生じた同乗者の全ての損害の賠償を求めることは少々酷ではないか、という視点から、好意同乗・無償同乗のみを理由として賠償額を減額した裁判例が散見されました。

 

しかし、現在の実務では、単なる好意同乗・無償同乗のみを理由として賠償額を減額することはなく、同乗者に帰責事由の認められる場合に限り、減額を認めるとの運用になっています。

 

3.同乗者の帰責事由

 

好意同乗・無償同乗において、同乗者に生じた損害の賠償額につき減額を認めるには、同乗者の帰責事由の存在を必要とします。

ここでの「帰責事由」とは、要するに運転手の起こした交通事故及びそれによる同乗者の損害の発生について、同乗者に何らかの責任を認めるべき事情があることを意味します。

もう少し具体的にいえば、一般的には、帰責事由は、①危険承知型、②危険関与・増幅型の2種類存在するといわれています。

 

まず、①危険承知型とは、運転手の無免許、薬物乱用、飲酒など事故発生の危険性の高いことを基礎づける事情の存在を知りながら、あえて同乗した場合のことです。

次に、②危険関与・増幅型とは、スピード違反を煽るなど同乗者自身において、事故発生の危険性を増大するような状況を作り出した場合のことです。このような場合には、同乗者に帰責事由があるとされ、賠償額は減額されてしまうのです。

 

なお、このような減額を認める法的根拠は、事故の当事者双方に過失のある場合において損害の公平な分担を図るために賠償額の調整を行う過失相殺の法理の適用又は類推適用にあるといわれています。

 

3−1.今回のケースにおける帰責事由

 

今回のケースにおいて、Aさんは同乗前に、Bさんから、最近眠れないことや徹夜明けであることを聞いており、Bさんの睡眠不足という事実を知っていました。では、このような場合には、Aさんの賠償額は、帰責事由があるものとして、減額されてしまうのでしょうか。

 

このようなケースに関連する裁判例として、被害者が学校の同級生と一緒に徹夜して遊んだ後、未明にその同級生の運転する自動二輪車の後部座席に同乗中、普通乗用自動車と衝突して死亡した事案につき、無償同乗等を理由とした賠償額の減額はしないとしたものがあります(大阪地裁平成13年10月26日判決)。

そうすると、一緒に徹夜していたわけでもないAさんについて好意同乗・無償同乗を理由とした減額は認められない可能性が高いといえます。

 

4.どのような場合に帰責事由は認められるのか?

 

 

4−1.危険承知型

 

飲酒することを承知して運転手とカラオケレストランに行き、飲酒して加害者の運転する車両に同乗中、加害者が70キロオーバーの速度でハンドル操作を誤り衝突した事故につき、飲酒が影響したとして、20%減額した裁判例があります(東京地裁平成11年7月29日判決)。

 

他方、カラオケ店において飲酒した帰りに加害者が被害者に運転を交代した後、速度オーバーによりカーブを曲がり切れず路外に転落させた事故につき、被害者は事故発生の危険性を増大させるような状況を作出しておらず、運転を交代したのは加害者に迫られ逆らえないと感じたからであり、加害者に危険な運転をやめるように言えない雰囲気であったとして、減額を否定した裁判例があります(東京地裁平成24年9月24日判決)

 

4−2.危険関与・増幅型

 

加害者が時速40キロメートルに加速して交差点を左折しようとしたため車両が転倒して箱乗り乗車中の被害者を死亡させた事例につき、自ら言い出して箱乗りしていた被害者につき2割の過失相殺を認めた裁判例があります(横浜地裁平成22年10月29日判決)。

なお、同裁判例では、箱乗りを容認した年上の加害者にも責任があるとして、減額の割合を2割にとどめています。

 

他方、加害者がドリフト走行して海中に転落して同乗者の死亡した事例について、被害者は加害者と初対面であり、加害者から「ドリフトでもやろうか」と言われたことに対して、被害者を含む同乗者が誰も反応していないことからすれば、被害者は加害者が本当にドリフト走行などの危険運転をすると想定することは期待できず、事故発生の危険性が増大するような状況を積極的に作出または助長した事情もないとして減額を否定した裁判例があります(神戸地裁平成27年11月11日判決)。

 

以上のとおり、過去の裁判例では、類似のケースでも、減額を認める場合と認めない場合に分かれており、同乗者の帰責事由の有無についての判断は個々の事故における具体的事情を慎重に吟味して行われているようです。

また、同乗者に帰責事由を認めて減額する場合には、その減額の割合は、概ね1割~3割程度となっています。

 

5.単独事故でない場合

 

ここまでは、Bさんが単独事故を起こした場合の説明を中心にしてきましたが、最後にBさんがCさんの運転する車と衝突事故を起こした場合について、若干触れておきます。

 

このようなケースにおいて、Cさんに過失のある場合、Aさんは、もう一人の加害者であるCさんに対して損害賠償請求できます。

 

このときAさんに帰責事由のない場合には、Aさんは単なるBさんの知人ですから(仮にBさんがAさんの配偶者であるような場合には被害者側の過失の法理というものがあり、Bさんの過失をAさんの過失として考慮されることがあります。)、Cさんに対して損害の全ての賠償を請求することができます。Bさんに過失のある部分はCさんとBさんとの間の求償の問題として処理されます。

 

問題は、仮にAさんに帰責事由が認められる場合です。もし、事故全体の過失の割合について、Aさん2割:Bさん6割:Cさん2割であるとした場合、Aさんは、Cさんに損害額の8割を請求できるのでしょうか、それとも自身の過失とBさんの過失を加算した8割の減額となり、Cさんに対しては損害額の2割を請求できるにとどまるのでしょうか。

 

この問題については、実務上、一般的に確立された考え方は未だない状態ですが、参考例として、加害者の1名と共同して暴走行為を行い、他の加害者の車両と衝突した事故により死亡した被害者である同乗者に帰責事由を認めたケースにつき、暴走行為は加害者と被害者が一体になり行った共同行為であるから、共に暴走行為をしていた加害者の過失は被害者の過失として考慮することができるとした裁判例があります(最高裁平成21年7月4日判決)。

 

なお、この裁判例は、同乗者に危険関与・増幅型の帰責事由のある場合に関する裁判例であり、危険承知型のケースにおいては、そのまま妥当するものではありません。そのため今回のケース(睡眠不足による不適切な運転の危険を知りながら、あえて同乗したという危険承知型の帰責事由が仮にAさんに肯定された場合)において、この裁判例から、Bさんの過失を当然にAさんの過失として考慮すべきであるということにはならないのです。

 

6.保険会社から賠償額の減額を求められたら

 

保険会社は、かつては好意同乗・無償同乗のみを理由に賠償額の減額を認めた裁判例があることから、同乗者の帰責事由の有無にかかわらず、賠償額の減額を求めてくることがあります。

このような保険会社の対応に直面した場合には、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。

 

一人で対応してしまうと、保険会社の言い分の法的根拠の有無を適切に判断できないまま、自分にも非があるのではないかという感情から、何となく保険会社の言い分を聞き入れてしまい、適切な賠償を受けられなくなる危険があります。

 

弁護士であれば、第三者の立場から、また、法律の専門家としての立場から、保険会社の言い分について適切な判断を行い、適宜、交渉等により適正妥当な賠償金の支払を認めさせることもできるのです。

 

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